Armが推進する産学連携とAIの可能性(ダボス会議2025)

  • 本記事は、2025年1月28日にArm Newsroomに掲載された英語記事を日本語訳したものです。

2025年のダボス会議で開催されたArmのスポンサードセッションでは、AIの革新を推進・加速するための学術界と産業界の連携の重要性について議論されました。

世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)は、世界のリーダーたちが集まり、グローバルおよび地域の主要課題に取り組む場です。テクノロジーはこうした議論において極めて重要な役割を担っています。2025年のダボス会議では、「インテリジェント時代に向けた協力」をテーマにAI革新の可能性が議論され、Armのリーダーたちも、このテーマについての見解を述べました。

ダボス会議を通じ、ArmはAIの発展における産学連携の重要性を改めて認識しました。大学はAI研究の最前線に立ち、次世代の実社会で活用されるアプリケーションを生み出す技術革新を推進しています。一方、産業界は、この研究を加速させるためのインフラ、指針、ツールを提供し、社会やビジネスに実益をもたらす役割を担っています。

Armは、AI分野の世界的な研究者を招き、パネルディスカッションを開催しました。このセッションでは、産学連携を成功させるための要素や、研究室での研究を実社会のAIアプリケーションとどのように結びつけるか、さらにAI時代に向けた、未来の人材である学生の育成方法など、幅広いテーマが議論されました。

産学連携によるAI革新の加速

Armの最高マーケティング責任者(CMO)であるアミ・バダーニは、パネルセッションの冒頭で、Armがこれまで学術機関と連携し、技術革新を推進するとともに、次世代の技術人材の育成に取り組んできた実績に言及しました。こうした連携の一例として、2024年4月に米国と日本が発表した総額1億1000万ドル規模にのぼる2件の産学連携による新たなAIパートナーシップがあります。この取り組みには、Armに加え、マイクロソフトやソフトバンクグループなど複数の民間企業が支援を表明しています。※1

カーネギーメロン大学のファーナム・ジャハニアン学長は、「AIの進化は、学術機関、民間企業、公共部門の協力によってさらに加速される」と述べました。同大学は慶應義塾大学と連携し、最先端のAI研究に取り組む研究者や学生が協力するプロジェクトを推進しています。

慶應義塾の伊藤公平塾長は、2018年に始まったIBM量子コンピュータ・ハブの事例を紹介しました。量子コンピューティングの技術進化は徐々に進んでいますが、IBMのような民間企業の支援が研究の発展に不可欠であり、今後の実用化にも貢献するだろうと語りました。

3人目のパネリストである、モハメド・ビン・ザイード人工知能大学のエリック・シン学長は、世界初のAI専門大学としての立場から、大学が果たす独自の二重の役割について説明しました。彼は、「大学は「技術の発明者であり、教育者でもある」という役割を担っており、これは技術の発展と未来の人材育成における大学の重要性を示している」と述べました。

動画:ダボス会議2025での
パネルセッション全編

AIがもたらす変革的な影響

パネルディスカッションでは、AIがもたらす社会・経済への影響についても議論されました。ジャハニアン氏は、「AIは私たちの時代における最も基本的な知的進歩の一つであり、経済のあらゆる側面に影響を与える」と述べました。

この発言にシン氏も賛同し、AIを『未来の経済と技術の新たなエンジン』と表現しました。また、AIが社会に与える深い影響について言及し、その具体例として、新薬やワクチンの開発などの画期的な科学的ブレークスルーを加速させる可能性を挙げました。

2025年、「AI実用化の年」

しかし、AIは単に将来の画期的なイノベーションの可能性を秘めた技術というだけではありません。WEFは2025年を「AI実用化の年」と位置づけており、パネルディスカッションでは短期的にAIがもたらす実用的な活用法について議論が交わされました。ジャハニアン氏は、AIを既存のアプリケーションに統合することの重要性に言及し、これによりビジネスのワークフローが向上し、商業的な価値が生まれると指摘しました。また、これらのAI活用を「手に取りやすい果実(low hanging fruit)」と表現し、コスト削減や業務効率の向上といった企業にもたらす大きなメリットを強調しました。

すでにAIは、企業の内部および外部の業務アプリケーションやオペレーションに統合されつつあります。バダーニは、Armが近日発表予定の「AIバロメーター調査」の初期結果について言及し、世界のビジネスリーダーの90%以上が何らかの形でAIを実際に導入していることを明らかにしました。これは、AIが商業環境に急速に浸透していることを示す非常に大きな数字です。

一方、伊藤氏は、AIが膨大なデータの収集を支援できる能力について言及しました。特に、生物学や医学の研究分野において、AIの活用により研究プロセスが加速され、最終的には新たなブレークスルーがより迅速に生まれる可能性があると述べました。

次世代人材の育成

パネルセッションでバダーニは、「WEFによると、2030年までに1億7000万件という驚くべき数字である新たな雇用が創出されると予測されている」と述べました。しかし、この雇用創出に対応するためには、大学が学生に将来のキャリアに備えさせるための教育や研修を提供することが不可欠です。

ジャハニアン氏は、AIの進展により、大学のカリキュラムが再構築されつつあると指摘しました。これは単に技術的なエンジニアリングスキルにとどまらず、AIを活用したツールと協働し、効果的にコミュニケーションを取るための基礎的なスキルも重要視されていると述べました。

伊藤氏は、自身の大学での経験について言及し、学生が教師よりもはるかに速いスピードでAIツールを学び、活用していると述べました。場合によっては、学生が教師の立場となり、授業で他の人にこれらのツールの適切な使い方を教える場面も生まれていると語りました。

最後に、シン氏は、AIが学生向けにパーソナライズされた学習を提供できる能力について言及しました。これにより、学生の学習成果が向上し、将来のキャリアに向けた準備がより効果的に進められると述べました。

AIの変革的な可能性を最大限に引き出す

大学での研究は、進化し続けるAI技術の無限の可能性を垣間見せてくれます。Armは産業界のパートナーとともに大学と連携し、研究の発展を加速させ、イノベーションを研究室から実社会のアプリケーションへとより迅速に展開することを目指しています。これにより、社会全体がAIの変革の恩恵を実感できるようになるでしょう。

ArmはAIのコンピュートプラットフォームを提供することで、AIの持つ膨大な可能性を社会にとって有益な形で引き出すことに取り組んでいます。そのために、産業界と大学のパートナーシップがこの使命の実現に不可欠な要素となっています。

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翻訳記事:Arm at Davos 2025: Driving AI Transformation Though Academic and Industry Collaborations
Armについて

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