Arm AI Readiness Indexレポートは、企業におけるグローバルなAI成熟度と実装に関する包括的な分析を行ったものです。8か国のビジネスリーダー655人からの調査データに基づき、AIをめぐるグローバルな機会と課題を探る広範な知見を提供します。
世界中の企業の役員室や戦略会議において、人工知能(AI)は遠い憧れから差し迫った優先事項へと変わっています。ビジネスリーダーを対象とするArmの広範な調査からは、注目すべき現実が明らかになりました。AIの採用は急速に加速しており、グローバル企業の82%はすでに日常業務でAIアプリケーションを導入しているのです。このような人工知能の採用は、さまざまな業界と地域で広く浸透しており、AIがもはや巨大テクノロジー企業の専売特許ではなく、あらゆる種類の企業にとって必須技術となっていることが分かります。
このような採用の勢いの中心的な存在がカスタマーサービスであり、企業の63%が顧客インタラクションの強化に向けてAIを導入しています。文書処理(54%)、ITオペレーション(51%)、セキュリティ・アプリケーション(51%)が僅差でこれに続いており、AIがいかに急速にビジネスの中核機能に浸透しているかが分かります。これは単なる実験ではなく、大規模な変革といえます。
AIに対する熱意は、組織的な階層の中に深く浸透しています。リーダーの実に90%は、自社がAI主導の変化を受け入れていると報告、83%はAIの採用を「急務」と認識しています。

最も重要な点として、企業の82%は最高レベルのエグゼクティブ・スポンサーシップを保証しており、CEOと上級管理職はAIイニシアチブを個人的に支持しています。このようなトップダウンのコミットメントからは、AIが技術的な好奇心の枠組みに留まらず、戦略的な必須事項になっていることが分かります。
財務的なコミットメントは、こうした戦略的な移行を強固にするものです。8割の企業がAI専用の予算を設定していますが、地理的な差異によって投資アプローチは明確に異なります。予算配分ではアジア太平洋(APAC)地域が最も高く、欧州の76%、米国の75%に対し、アジア太平洋地域の企業は86%がAIイニシアチブにリソースを割いています。一方、投資については米国企業が積極的で、57%はIT予算の10%以上をAIに投じることを表明しており、欧州(46%)とアジア太平洋(45%)の割合を上回っています。


「AIによって反復作業がなくなることで、社員はより戦略的・創造的なタスクに専念できます。」
– ビジネスリーダー調査の回答者
ビジネスリーダーの87%は、今後3年間でAI予算の増加を予想しており、この財務的なコミットメントには揺らぐ気配がありません。
このようなAI推進の原動力とは何でしょう。端的に言うなら効率化です。グローバルリーダーの実に63%が、AIに期待する第一のメリットとして業務の効率化を挙げており、80%は2025年のAI戦略の中心的なフォーカスと考えています。あるビジネスリーダーは、「AIによって反復作業がなくなることで、従業員はより戦略的・創造的なタスクに従事できます」と回答しました。別のリーダーは、「業務全体で意思決定とイノベーションを効率化することで、AIの進化は自社に影響を及ぼす一方、新たなテクノロジーや規制が変化する中、継続的な適応が求められる」状況を説明しました。
しかし、こうした勢いの背後には、憂慮すべきパラドックスが存在します。

AIが広く採用され、経営陣の支持を得ているにも関わらず、明確に定義された包括的なAI戦略の策定率は39%に留まっています。さらに、全社的なAI導入の指針となる、堅牢な変更管理計画を導入している企業はさらに少なく、37%に過ぎません。こうした溝からは、AIが導入される一方、多くの企業がAIの効果的な統合方法を十分に理解しておらず、今後の変化に向けた従業員の準備も不十分であることが分かります。
金融業界のIT部門に従事するバイスプレジデントは、以下の点を認めました。「私たちに必要なのは、こうしたツールセットを正式に導入するための業務です。ツールセットの利用はビジネスユニット内で有機的に拡大しており、重複が存在します。目標には近づきつつあると思いますが、こうした状況を把握することが私の役割であることは明白です。」
このようにまとまりを欠いた戦略により、現行のAIイニシアチブの持続可能性や業績に及ぼす長期的な影響に関して、重大な疑問が提起されます。
慎重に進める
AIへの熱意は、過酷な現実によって冷却する必要があります。というのも、多くの企業は未だにAIイニシアチブの効果的な拡張体制が十分ではありません。私たちの調査によると、インフラストラクチャの準備、人材の確保、データの品質という3つの重要な分野で重大な欠陥が明らかになっており、それぞれがAIの可能性をフルに引き出す上での潜在的な障壁となっています。

インフラストラクチャの制限は特に懸念されます。AI需要の高まりに対応するためのシステムやストレージのリソースを保有している企業は29%に過ぎません。AIワークロードのエネルギー要件の増大に対処すべく、専用の電源インフラストラクチャを保有する企業はさらに少なく、23%に留まっています。つまり、電力管理戦略を設定している場合も、企業の77%は設備のアップグレードを開始したばかりなのです。さらに、リーダーの65%は、AIシステムに対する包括的なエネルギー効率の最適化対策が欠けていることを認めており、こうしたワークロードの増大に伴い、運用コストと環境への影響について疑問が生じています。

人材の溝も同じく重要な課題です。ビジネスリーダーの3分の1(34%)は、AIの専門知識に関して自社が「著しく人材不足」または「人材不足」だと報告しており、半数近く(49%)は、AI導入を成功へと導く上での第一の障壁として、高スキル人材の不足を挙げています。製造業に従事するある経営幹部は、現状を以下のように嘆きました。「これは人的資源に関わる問題です。AIを熟知し、AIを語れる人材を見出すのは非常に困難です。」
「私たちに必要なのは、こうしたツールセットを正式に導入するための業務です。ツールセットの利用はビジネスユニット内で有機的に拡大しており、重複が存在しています。」
– 金融業・情報技術部門のバイスプレジデント
こうした人材の溝を認識しているにも関わらず、問題解決へのアプローチは一貫性を欠いています。リーダーの3分の2(66%)は、AI統合の拡大に適応するための既存従業員のスキルアップの意向を示しているものの、39%は、従業員のAIスキルを育むための専用プログラムを設けてはいません。このように、ニーズを認識しつつも決定的なアクションにはつながっていないことで、人材の溝は解消されるどころか拡大する恐れもあります。
おそらくは最も根本的な問題として、企業は効果的なAIアプリケーションにとって不可欠な基盤としてのデータの準備に悪戦苦闘しています。企業の半数近くが顧客データ(49%)と業務データ(48%)をAIイニシアチブで活用しています。一方、データ管理プラクティスの多くは未だに初歩的です。AI/MLモデル用の基本的なデータ自動化プロセスの導入の割合は約半数(53%)に過ぎず、18%は手動または場当たり的なデータクリーニング手順に依存しています。驚くなかれ、リーダーの46%が、AI導入の成功を妨げる大きな障壁として、データの品質とアクセシビリティの問題を挙げています。
業界リーダー各社はこうした課題を認識しています。金融業界のIT部門のあるバイスプレジデントは、以下のように説明しました。「AIに関しては、データの品質とカタログ作成が非常に重要です。(中略)これは私たちが直ちに取り組むべき課題です。」製造業に従事する別のIT経営幹部は、統合型データプラットフォームの必要性を以下のように強調しました。「AI利用時に他の機能の活用も試せるよう、データを単一のプラットフォームに統合する必要があります。」
こうしたインフラストラクチャ、人材、データの課題は看過できません。このような根本的な能力を解決できない場合、初期の概念実証デプロイ後の拡張に向けた試みの際には、AI投資によるリターンの減少リスクが発生します。
調査概要
調査方法
Armは、本調査をMethod Researchが作成したオンライン調査を使用して実施しました。この調査は、RepDataおよびiTracksによって配信され、さまざまな業界のビジネスリーダーである18歳以上の成人655人(n=655)を対象としています。
回答者はいずれも従業員1,000人以上の企業に所属し、自社内で購買に関する意思決定に影響を持つ立場にあります。対象国は、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、ハンガリー、中国、台湾、日本です。データ収集期間は2025年1月16日から2月5日までです。
本調査は、Method Communicationsのマーケティングリサーチ専門部門の責任者であるバイスプレジデントのスヴェトラーナ・ガーシュマン氏と、同社のリサーチアナリスト、ファティマ・アスラム氏が主導しました。
調査対象者属性
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本記事は全2回の前編です。
関連リンク
【Arm AI Readiness Index レポート】AIへの準備度に関する世界的状況: データドリブンな分析(後編)
転載記事:Arm AI 準備度インデックス
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