本記事は全2回(前編・後編)の後編です。「AIの活用意識」や「AI人材」に関する調査レポートをご紹介した前編に続き、後編では「セキュリティへの感度」や「AIへの期待と現実」についてご紹介します。
セキュリティへの感度
自社の業務にAIを組み込む企業が増加する中、データのセキュリティとプライバシーという、緊急の注意を要する新次元のリスクが台頭しています。個人を特定できる情報(PII)が急速にAIイニシアチブの中心的な存在となる中、これに比例してセキュリティへの懸念も拡大しています。

「業務全体で意思決定とイノベーションを効率化することで、AIの進化は自社に影響を及ぼす一方、新たなテクノロジーや規制が変化する中、継続的な適応が求められます。」
– ビジネスリーダー調査の回答者
企業の半数近く(49%)はすでにAIイニシアチブで顧客データを利用しており、このトレンドは現在も加速しています。今後については、リーダーの56%が、将来のAIアプリケーションで個人を特定できる情報を活用する計画を示しています。このような機密データへの依存の高まりは、セキュリティ上の重大な懸念を伴います。ライフサイエンス/バイオテクノロジー業界の取締役は、以下のように説明しました。「当社もそうですが、データセットを保有する企業は、これまで以上に安全策を講じるべきだと考えます。
そのすべてを公の知識として共有できるわけではありませんが、AIによって、こうしたデータを閲覧し、解釈し、分析することは、1,000倍容易になっています。」
AIシステム内で機密データの利用が拡大することで、セキュリティ上の懸念のみならず、偏りや公平性に関する倫理的な懸念も発生します。AIシステムの客観性が、トレーニング対象のデータのそれを超えることはなく、AIアプリケーションが偏りのない公平な決断を下すことに関し、重要な問題が提起されています。私たちの調査では、この分野での重大な溝が明らかになっています。ビジネスリーダーの半数近く(47%)は、自社のAIシステムのバイアス検知・修正プロセスが不十分なことを認めています。さらに憂慮すべき点として、17%が正式なバイアス修正プロセスを策定しておらず、場当たり的なバイアスチェックに頼っています。ビジネスの重大な意思決定にAIがより深く組み込まれる中、このような一貫性を欠いたバイアス軽減アプローチは重大なリスクを伴います。
未来志向のリーダーは、こうした課題を認識しています。金融業界のあるバイスプレジデントは、以下の見解を述べました。「私たちはデータのバイアスを排除しなければならず、そのためには、データサイエンティストやデータスチュワードのサポートによって、社内で導入すべきポリシーや基準のコントロールを考案すべきです。」
こうした認識により、リーダーの44%は、AIの倫理やデータエンジニアリングを、今後5年間の企業が最も必要とする最重要スキルと考えています。
好材料として、企業は自社のAIシステムにセキュリティ対策を導入しつつあります。具体的なAIセキュリティ対策が存在しないと回答した企業は、わずか5%でした。大多数の企業は何らかの予防策を講じており、56%はAIモデルとインフラストラクチャの定期的なセキュリティ監査を実施し、56%はAIを活用したアプリケーションのセキュリティテストを実行しており、51%はAIシステムの脆弱性評価を実施しています。
上記の対策にも関わらず、重大な懸念が残っています。ビジネスリーダーの半数近く(48%)は、モデルの抽出によるデータプライバシーの侵害をAIセキュリティの最大の懸念事項に挙げています。小売業界のあるマーケティング/セールス担当バイスプレジデントは、以下の見解を述べました。「ITセキュリティについては、大企業が心配するような、未解決の重大な問題があると考えます。」機密性の高いビジネスデータや顧客データとAIシステムがより深く統合される中、企業は基本的なセキュリティ・プラクティスから脱却し、包括的なセキュリティ戦略を策定することで、AI技術に関連する独自の脆弱性に対応する必要があります。
AIを活用した未来に備えて
今後の展望を見据えた際、以下の予測が考えられます。AIの採用は今後もあらゆる業界で加速し続けるでしょう。現時点で効果的な準備をしている企業は、こうした技術革命に乗じたポジションを獲得できるはずです。一方、根本的な準備の溝に対処できない場合、企業は遅れを取るリスクがあります。
AIを使用する企業の間で、AIのビジネスケースはますます強力になっています。回答者の65%は、自社のAIアプリケーションの投資対効果について、期待通り、あるいは期待以上の実績を残していると答えています。このようなプラスの体験は採用拡大の原動力となっており、ビジネスリーダーの92%は、何らかの形でAIの使用を拡大する計画を示唆しています。

しかし、AIイニシアチブを成功裏に拡大するには、準備に関わる複数の重要な溝に対処する必要があります。ビジネスリーダーの3分の1(34%)は、AIのセキュリティに関する最大の懸念事項として、既存のセキュリティ・インフラストラクチャとの統合を挙げています。一方、43%の企業では、従業員がAIについてせいぜい基本的な理解しか示しておらず、トレーニングの追加が急務となっていました。こうした課題により、ビジネスリーダーの3分の2(67%)は、企業が今後5年間で育むべき最も重要なAI関連のスキルとして、AIのセキュリティを挙げています。AIを活用した未来への準備に際し、企業は熱意と戦略的な計画のバランスを取る必要があります。インフラストラクチャの制限に体系的に取り組み、人材不足を解消し、データ品質を向上し、セキュリティ対策を強化することで、企業は初期の実験段階を超えて、AIの変革的な可能性を大規模に実現できます。
課題はあるものの、今後の道筋は明確です。企業に求められるのは、AIへの熱意を包括的な戦略へと転換し、基本的な準備の溝に取り組むことです。移行を成功へと導くことで、AIの約束する効率化と競争上の優位性を享受できるようになります。これに失敗した場合、AIへの野心とAIの準備の溝を埋めることは、ますます困難になることが実証されています。
調査概要
調査方法
Armは、本調査をMethod Researchが作成したオンライン調査を使用して実施しました。この調査は、RepDataおよびiTracksによって配信され、さまざまな業界のビジネスリーダーである18歳以上の成人655人(n=655)を対象としています。
回答者はいずれも従業員1,000人以上の企業に所属し、自社内で購買に関する意思決定に影響を持つ立場にあります。対象国は、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、ハンガリー、中国、台湾、日本です。データ収集期間は2025年1月16日から2月5日までです。
本調査は、Method Communicationsのマーケティングリサーチ専門部門の責任者であるバイスプレジデントのスヴェトラーナ・ガーシュマン氏と、同社のリサーチアナリスト、ファティマ・アスラム氏が主導しました。
調査対象者属性
国別構成 |
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本記事は全2回の後編です。
関連リンク
【Arm AI Readiness Index レポート】AIへの準備度に関する世界的状況: データドリブンな分析(前編)
転載記事:Arm AI 準備度インデックス
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