AIによる自動車業界の変革:Armが考える、次に必要な進歩とは

  • 本記事は、2025年5月14日にArm Newsroomに掲載された英語記事を日本語訳したものです。

AI(人工知能)は自動車業界を大きく変革しており、車両の設計、製造、機能に革新をもたらしています。これは、産業全体でAIの導入が進んでいる状況を背景としており、ArmのAI Readiness Index レポートによると、世界のビジネスリーダーの82%が、現在、自社でAIアプリケーションを利用していると回答しています。

しかしながら、自動車におけるAIの可能性を最大限に引き出すためには、以下の分野でのさらなる進歩が必要です。

  • タイムトゥマーケット(TTM:製品を市場に投入するまでの時間)
  • 機能安全
  • スケーラブルなアーキテクチャ
  • エッジでのリアルタイム性能
  • セキュリティ

タイムトゥマーケットの加速

市場は急速に変化しており、自動車メーカーには、よりスマートな車両をより迅速に提供するための新たな開発手法が求められています。そのため、従来の開発モデルでは対応しきれないタイムトゥマーケットの短縮に向けて、より適応性が高く、効率的で、柔軟な自動車開発アプローチへの転換が必要になっています。

この課題に対応するために、自動車業界では、ハードウエアとソフトウエアの開発チームが初期段階から共同開発できる柔軟なコンピュートプラットフォームの導入が進められています。次世代のAI車載アプリケーションを開発するチームにとって、シミュレーション、テスト、検証を早期に実施できる環境は不可欠になりつつあります。Armは基盤技術、仮想プラットフォーム、そして迅速で協働的な開発および提供を実現するエコシステムを通じて、この変革を支援しています。

機能安全の基準を引き上げる

アダプティブクルーズコントロール(ACC)、自動緊急ブレーキ、車線維持支援などの機能はAIによって進化を遂げています。これらの技術は車両の知能化を促進し、より応答性と予測性に優れた車内体験を実現します。しかし同時に、こうした機能には、システムへの高い信頼性と瞬時の意思決定能力が強く求められます。

自動車技術には、高速かつフェイルセーフな機能安全の導入が求められます。Armの最新のAutomotive Enhanced(AE)プロセッサは、さまざまな機能安全上重要な機能へのサポートを内蔵しています。この柔軟性によって、自動車メーカーは特定のアプリケーション要件に合わせた安全機能を構成しつつ、ISO 26262などのような国際基準への準拠が可能となります。

スケーラブルなアーキテクチャでソフトウエアの複雑性に対応

自動車がAIによって形づくられるようになる中で、車載インフォテインメントシステム(IVI)、先進運転支援システム(ADAS)、パワートレインなどの新機能が、ソフトウエアにさらなる複雑さをもたらしています。車両の世代やプラットフォーム、構成をまたいでコードを管理することは、エンジニアリングにおける重要な課題となっています。このように、特に自動車分野において複雑さを増すAIシステムに対処するには、階層化されたスケーラブルな演算アーキテクチャへの移行が求められます。

その結果、自動車システムのどの階層でも利用でき、柔軟で再利用可能かつ標準化されたソフトウエアプラットフォームへの需要が高まっています。Armは、クラウドネイティブな取り組みであるSOAFEE(Scalable Open Architecture for Embedded Edge)を通じてこの変革をリードしています。SOAFEEは、エコシステム全体でのオープンな協業を促進し、開発者が一度構築したソフトウエアを複数のプラットフォーム間で容易に移植および展開できるよう支援しています。

エッジにおけるリアルタイムのAIパフォーマンス

歩行者検知や車線維持支援など、安全性が極めて重要なアプリケーションはAIの能力に大きく依存しており、エッジでのAIによるリアルタイム推論が必須となっています。車両は、遅延が発生しやすいクラウド処理に依存することなく、ミリ秒単位でセンサーデータを処理し、応答する必要があります。

しかし、ArmのAI Readiness Index レポートによると、このように増加するAIワークロードに対応するためのリソースの拡張に必要なインフラを保有していると回答した組織は29%にとどまっています。また、同レポートでは2030年までにAIワークロードがデータセンターの電力消費の最大30%を占める可能性があると指摘されており、エネルギー効率の高いエッジコンピューティングが将来の車載プラットフォームにおいて重要な役割を果たすことになるとしています。

エッジコンピューティングがAIの核心的な要素となりつつある中、Armは高性能かつ低消費電力のAEテクノロジーを幅広く提供しています。一例として、Arm Neoverse V3AE CPUはAI駆動のADASアプリケーションなど負荷の高いエッジワークロードにサーバークラスの性能を提供しています。また、Arm Cortex-A720AE CPUはコンパクトで省電力な設計により、AIのリアルタイム推論を支える柔軟で持続的なパフォーマンスを実現します。

AIが実装された自動車を根本から守るセキュリティの確立

車両におけるAI機能の拡大に伴い、潜在的なリスクも増加しています。AIシステムは従来のサイバーセキュリティ上の懸念を超える新たな課題をもたらしており、自動車用のコンピューティングシステムのような安全性が極めて重要な環境ではその傾向が顕著です。

ArmのAI Readiness Index レポートによると、ビジネスリーダーの48%がモデルの抽出や悪用に関するデータプライバシー侵害を最も重要なセキュリティ上の懸念として挙げています。敵対的攻撃や学習時のデータポイズニング、モデルの盗用といったAI固有の脆弱性を受けて、自動車コンピューティングプラットフォームのあらゆる階層において強固なセキュリティ対策を組み込む必要性が高まっています。

これらのリスクに対処するためには、セキュリティを初期段階から設計に組み込むことが不可欠です。Armのアーキテクチャは、幅広いハードウエアおよびソフトウエアの保護を実現する組み込み型のセキュリティ技術を備えており、スケーラブルで信頼性の高いAIの自動車開発を支える安全な基盤を構築します。

自動車技術の未来を切り開く

AIは、新しい高度な機能安全要件の導入や車載アプリケーションの変革などを通じて、自動車を根本的に再定義しつつあります。自動車業界が目指す未来は、より高度な知能、エッジでの先進的なリアルタイムAI機能、そしてスケーラブルなAI対応コンピュートプラットフォームを備えた自動車の実現と言えるでしょう。

幸いなことに、自動車業界はゼロからそれらを開発する必要はありません。既存の技術がスケーラブルな演算処理と安全かつリアルタイムでのAI実装を可能とし、変革を支えます。半導体からソフトウエアに至るまで、Armはこの変革の中心に位置し、コンピュートプラットフォームを通じてAIの未来を築いていきます。

関連リンク
翻訳記事:AI is Changing Everything About How Vehicles Are Being Built. Now What?
Armについて

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