Armが切り開くロボティクスの次なる潮流とは

  • 本記事は、2025年6月17日にArm Newsroomに掲載された英語記事を日本語訳したものです。

ロボットはもはや工場やSF映画の中だけの存在ではなく、日常生活の一部となっています。リビングを静かに掃除するロボット掃除機や、買い物中に案内してくれるセルフレジ端末などは、もはや目新しいものではありません。こうした事例は、社会全体がより大きく変わりつつあることを示しています。

AIや機械学習の進歩によって、ロボットは単なる「決められた作業をこなす存在」から、「状況に適応し判断するコラボレーター」へと進化しています。周囲の環境を認識し、リアルタイムで反応し、さらには自然言語で意思疎通することも可能です。こうした知能の向上は、機械とアシスタントの境界を曖昧にし、人とロボットの新たなコラボレーションの可能性を広げています。

技術の発展に伴い、ロボットは今後さらに多くの分野で活躍するようになるでしょう。工場の協働ロボット(コボット)から、医療や物流などにおける自律システムまで、さまざまな領域に広がっています。AIは、ロボットを賢くするだけでなく、人とより自然に共存できる存在へと進化させています。認識・判断・行動といった能力を高めることで、生産性を向上させ、私たちの暮らしのあらゆる場面に影響を与え始めています。

フィジカルAI進化の中心にいるArm

世界はAIの進化の新たな段階へと突入しています。知能はもはやクラウド上だけにとどまらず、現実世界で「認識し、判断し、行動する」機械に組み込まれているのです。これがエージェント型AIの時代であり、システムは命令を待たずに自律的に行動し、リアルタイムで適応し、他の機械と協調します。同時に、それと同じ知能が環境を移動し、感知し、操作できるデバイスに統合されるフィジカルAIも台頭しています。

この変革の中心にいるのがArmです。エネルギー効率に優れ、スケーラブルなコンピュートを提供するリーディングプロバイダーとして、私たちはAIとロボティクスの融合をエッジで実現しています。そこでは、瞬時の意思決定と限られた電力での動作が求められます。駅構内を巡回するロボット、顔を認識するスマートロック、がれきの中を進むヒューマノイドなどあらゆるシーンにおいて、Armのコンピュート基盤がエージェント型AIを実現する共通の要素として機能しています。

R2C2の高度化されたロボット群とマルチロボットの自律制御

R2C2のAIプラットフォームは、ロボット用のAndroidのような存在で、多様なロボット群に対応する相互運用可能なOSとして機能します。香港では、R2C2を搭載したロボット犬が自律的に電車の車両点検を行い、数千もの視覚データを解析して99%以上の精度で点検結果を提供しています。このシステムはArm CPUを搭載したNVIDIA Jetsonモジュール上で動作し、制御や点検といった低遅延の処理を担いつつ、より負荷の高いAI処理をGPUにオフロードしています。

R2C2は、ロボティクス分野の難題に挑んでいます。異なるロボット間の相互運用性、実用的なアプリケーションソフトウエアの不足、そしてロボット群のスケーラビリティといった課題です。Armの技術を中核に据えることで、接続性や電力、レイテンシーといった制約が厳しい環境でも高いパフォーマンスを発揮できる、プラグアンドプレイ型のシステムを実現しています。

Deep Roboticsによる動作と知能の融合

Deep Roboticsの四足歩行ロボットは、産業用トンネルや災害現場といった過酷な環境において、移動性能の常識を塗り替えています。ArmベースのRockchip RK3588 SoCを搭載したこれらのロボットは、高精度なモーション制御をわずか10ワット強の電力で実現しており、従来のx86システムと比べて消費電力は3分の1に抑えられています。

この高効率化によって、より小型のバッテリー、簡素な冷却設計、そして長時間の連続稼働が実現します。発電所の巡回からヒューマノイドプラットフォームの開発に至るまで、Deep Roboticsの進歩はArm CPUに支えられています。実環境下でフィジカルAIを実現するために必要な、精密かつスケーラブルなコンピューティングがそこにはあります。

BekenのAI SoCによるエッジAIの実装

BekenのBK7259チップにより、おもちゃからスマートロックに至るまで、日常で使用されるデバイスに、超高速かつ高効率のAIが備わります。Arm Cortex-MコアとEthos-U65 NPUを搭載したこのチップは、わずか200ミリ秒未満でローカルでの顔認識を実行し、消費電力も最小限に抑えられているため、バッテリー駆動のエッジAI機器に最適です。

Bekenは、CMSIS-NNやVelaを含むArmのAIツールチェーンを統合することで、AIの開発と導入を加速させています。リアルタイムの音声処理、堅牢なセキュリティ機能、シームレスなWi-Fi接続も備えた同社のAIプラットフォームは、高性能なAIが省電力性やコスト効率と両立可能であることを示しています。

コストと機動力を両立する、UCRのヒューマノイド技術

Under Control Robotics(UCR)は、建設、鉱業、エネルギー分野などにおける危険な作業に対応する、頑丈で手頃な価格のヒューマノイドロボットを開発する独自のアプローチを採用しています。プロトタイプ「Moby」は、シミュレーションで訓練された軽量なAIモデルを用い、Arm搭載のJetson Orinモジュール上で実行されながら、歩行・バランス制御・環境適応を実現します。

このシステムでは、リアルタイムの動作ロジックにArm Cortex-A78クラスのCPUを、モーター駆動にはSTM32コントローラーを活用し、高価なシステムでしか得られなかった性能を低価格なセンサーと最小限の電力で達成しています。これは、過酷な環境に対応するエッジネイティブかつAI駆動型のロボットを、従来のアーキテクチャのような大掛かりな構成や高い電力消費なしに実現する、Armの強みを示す分かりやすい例です。

フィジカルAI時代の中核を担うArmの未来

フィジカルAIの時代へと移行する中で、ロボティクスはもはや研究領域ではなく、実社会で拡張可能なプラットフォームへと進化しています。産業用の四足歩行ロボットからAI搭載のおもちゃ、ヒューマノイド型の作業ロボットに至るまで、さまざまなイノベーションを共通の基盤として支えているのがArmのヘテロジニアス・コンピューティングです。省電力性、柔軟性、スケーラブルなAI性能を兼ね備えたArmの技術は、エージェント型AIやフィジカルAIを可能にするだけでなく、実用的にするための土台となっています。

ロボティクスの未来は、自律的で、適応性があり、あらゆる場面に組み込まれていくものです。そしてその未来が、スマートシティ、危険な作業現場、あるいは私たちの日常生活へと広がる中でも、Armは常にその中心にあり、「動く知能」を支え続けます。

関連リンク
翻訳記事:How Arm is Driving the Next Wave of Robotic Innovation
Armについて

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