Armイノベーションの35周年の節目にあわせて、世界の「演算」「接続」「創造」のあり方を変革してきた数々のテクノロジーを振り返ります。
35年前のコンピューティングは本体が重く、配線が複雑で、膨大な電力を消費していました。ノートパソコンはまだ珍しく、モバイル機器はかさばり、データの大半はサイロ化されていました。高いパフォーマンスの実現には大きな筐体と高いコスト、そしてエネルギーが必要であり、世界で数十億台ものインテリジェントな機器を接続するという発想は、当時多くの人にとって現実離れしたものだと思われていました。
しかし、Armの登場によって、こうした図式は一変しました。パフォーマンスと効率性が共存する可能性を問い直すことで、Armは極小デバイスにも搭載できるほど高い効率性を維持しながら、世界最大級のシステムにも拡張できる強力なコンピューティングを実現しました。
現在、Armの影響力はデジタルにつながっている世界中のすべての人々に及んでおり、3,250億個以上のArmベースチップが、現代の世界をつなぎ、動かし、前進させるテクノロジーを支えています。
インテリジェンスとパフォーマンス、電力効率を兼ね備えたArmベースの製品は、モダンコンピューティングを再定義することで、世界の技術変革の起爆剤となってきました。Armの設立35周年にちなみ、このような画期的なArmベース製品から35個を選んでご紹介します。
Armの草創期(1980年代~1990年代)
「電力効率」を設計思想の根幹に据えることで、ArmのDNAは形成されてきました。電力効率は、「あれば嬉しい」という程度の要素ではなく、Armの中核そのものでした。Apple Newtonは、新たな商用ライセンスモデルによって業界に革命をもたらすとともに、Armが企業としてグローバルに展開していくうえで極めて重要な役割を果たしました。
1. BBC Micro(1981~1986年):Armが企業として設立される前にリリースされたこのデスクトップPCは、Armアーキテクチャをベースとした史上初のデバイスです。BBC Microの販売台数は150万台を上回り、商業的に大成功しました。多くのユーザーが本製品でプログラミングを始めるなど、この世代のプログラマーやエンジニアに多大な影響を及ぼしました。
2. Apple Newton(1993年):Apple Newtonは市場での大ヒットには至らなかったものの、思考の転換を促す起爆剤として重要な役割を果たしました。当時のArm CEOだったRobin Saxby卿は、個々の製品の枠組みを超えた未来を見据え、Armの先駆的なIPライセンスモデルと将来の成功の礎を築きました。
3. Nokia 6110 GSM携帯電話(1997年):後にArmのフラッグシップモバイル設計となるArm7プロセッサーを基盤とした本製品は、市場で大きな成功を収めました。Nokiaの代名詞ともいえるモバイルゲーム「Snake」を初めて搭載した製品でもあります。
Snake perfection
モバイル革命(2000年代)
小型化による持ち運びやすさの向上はイノベーションの波を巻き起こしました。Armのアーキテクチャとテクノロジーは、この時代のモバイル機器全体で、効率的な高性能コンピューティングを実現しました。商業的な大成功を収めたiPhoneのカスタム設計は、この基盤の上に構築された高度な技術パートナーシップの力を示すものです。
4. iPod(第1世代)(2001年):Arm7アーキテクチャをベースとしたiPodによって、人々の音楽の楽しみ方は大きく変わりました。
5. ゲームボーイアドバンス(2001年):Armテクノロジーが初めて携帯型ゲーム機に採用された製品です。
6. BlackBerry Quarkシリーズ(2003年):2000年代初頭から後半にかけてのスマートフォンの爆発的な普及に先立ち、BlackBerryはモバイル機器を、企業の生産性を高める業務体験に不可欠な、常にオンラインでつながる「常時接続」デバイスへと変えるうえで重要な役割を果たしました。これが5年後のArmベースのBlackBerry Boldシリーズの成功へとつながりました。
7. Motorola Razr V3(2004年):Armv5アーキテクチャをベースとする本製品は、世界有数のベストセラーとなった「クラムシェル型」のモバイル機器であり、全世界で1億3,000万台以上を出荷しました。なお、90年代後半には、史上初の折りたたみ式携帯電話であるMotorola StarTAC(同じくArmベース)がリリースされています。
Motorola Razr V3
8. Amazon Kindle(第1世代)(2007年):Arm9プロセッサーを搭載した世界初の電子書籍リーダーとして、その後の数世代にわたる電子書籍製品へとつながりました。
9. 初代iOSおよびAndroidスマートフォン(2007年、2008年):初代iOS(iPhone 1)とAndroid(HTC Dream)スマートフォンはいずれもArmベースであり、Apple iPhone、Google Pixel、Samsung Galaxyシリーズなど、現在販売されている数十億台ものArmベースのiOSおよびAndroidスマートフォンの礎となりました。
10. iPad(第1世代)(2010年):現代的なタブレット機器の先駆けとなったiPadは、Arm Cortex-A8ベースのプロセッサーを搭載し、タブレット市場におけるArmテクノロジーの採用を世界規模で後押ししました。
モバイルの枠を超え、IoT、データセンター、自動車分野へと展開(2010年代)
2010年代のArmは、モバイルの枠組みを超え、新たなArmv8アーキテクチャを通じて「スケールアップ」を実現し、IoT、データセンター、自動車、PCなど、新たなコンピューティング分野への進出を加速させました。これにより、高いエネルギー効率を実現するというArmの企業理念は、これまで以上に広範なコネクテッド・インテリジェント・システムへと広がりました。
11. Nestサーモスタット(第1世代)(2011年):Nestサーモスタットは、Arm Cortex-M3+プロセッサーを搭載した世界初の家庭用スマートサーモスタットであり、数十億ドル規模のスマートホーム市場の礎となりました。
12. Raspberry Pi(モデルB)(2012年):初のArmベースのRaspberry Piプラットフォームは、多くのハードウエア設計者、ソフトウエア開発者、個人開発者に対し、2010年代に成長したIoT市場向けソリューションを実験・開発する機会をもたらしました。
13. Ringビデオドアベル(第1世代)(2013年):現在では広く普及しているRingビデオドアベルですが、その第1世代は当初、Arm Cortex-A7+プロセッサーを搭載していました。
14. Samsung Gear S(2014年):世界のスマートウォッチの先駆けとなったSamsung Gear Sは、Arm Cortex-A7 CPUおよびMali GPUテクノロジーをベースとしています。
15. Amazon Echo(第1世代)(2015年):世界のスマートアシスタントの先駆けとなった本製品は、当初はArm Cortex-A8+プロセッサーを搭載しており、家庭向けAIアシスタント市場の成長を牽引しました。
16. Roku Streaming Stick(2016年):ストリーミングサービスの人気拡大に伴い、多種多様なストリーミングスティックが市場に登場しましたが、そのひとつであるRokuはArm Cortex-A53プロセッサーを搭載していました。
17. Samsung Smart TV(2016年):Cortex-A53プロセッサーコアを搭載したこれらのスマートTVは、スマートホームオートメーションのハブとなり、ユーザーは家庭内の他のコネクテッドデバイスを制御できるようになりました。
18. Tesla Autopilot HW2(2016年):Tesla車におけるArmテクノロジーの初期の採用例として、S/3/X/Yモデルのオートパイロットシステムに統合されました。
19. Nintendo Switch(2017年):ニンテンドーDSに続く任天堂の次世代携帯ゲーム機も、Armテクノロジーをベースとしています。
20. AWS Graviton(2018年):クラウドおよびデータセンター向けの初代AWS Graviton CPUは、16個のCortex-A72 CPUコアをベースとしていました。その後のGraviton 2/3/4ではArm Neoverseプラットフォームが採用されています。
21. Chromebook(2018年):Arm Cortex-A73/Cortex-A76 CPUとMali GPUを搭載した第1世代のArmベースChromebook機器(Acer、HP、Lenovo製品など)が登場しました。
22. MacBook Air(2019年):MacBook Airの第1世代モデルには、ArmアーキテクチャをベースとするApple独自のM1チップが採用されました。
23. iRobotルンバi7(2019年):世界のロボット掃除機の先駆けとなった本製品には、Arm Cortex-A53+プロセッサーが搭載されています。
24. スーパーコンピュータ「富岳」(2020年):理化学研究所と富士通が共同開発したArmベースシステム「富岳」は、約730万個のArm CPUコアを搭載しています。2020年には世界のスーパーコンピュータに関するランキングで第1位を獲得し、Armベースのスーパーコンピュータとして初めて、世界最強のスーパーコンピュータとなりました。
25. Meta Quest 2(2020年):Arm Cortex-A77/Cortex-A55 CPUコアを統合した、エンターテインメントおよびゲーム体験をリードするVRヘッドセットです。
26. メルセデス・ベンツSクラス(2020年):メルセデス・ベンツのSクラスモデルにはArmのCPU/GPUテクノロジーが採用されています。現在では、世界中のほぼすべてのOEMがArmテクノロジーをコンピューティング基盤として採用し、安全性が求められる先進運転支援システム(ADAS)から没入型のキャビン内体験まで、さまざまな機能を支えています。
AI時代の到来:AIクラウド/データセンター、ロボット、エッジAI(2020年代)
AIドリブンである2020年代において、ArmはCPU、GPU、アクセラレーター技術を組み合わせたヘテロジニアス・コンピューティング手法を活用することで、あらゆる場所にインテリジェンスが行き渡る時代を支えています。一方、このインテリジェントでコネクテッドな世界の可能性を最大限に引き出すうえでの重要な原動力としてソフトウエアへの注目が高まる中、Armの開発者コミュニティは全世界で2,200万人以上の規模に拡大しています。
27. 火星ヘリコプター「インジェニュイティ」(2021年):Armv7アーキテクチャを技術基盤とするインジェニュイティは、火星では初めてとなる自律飛行を実現しました。
28. NVIDIA Grace Hopper(2022年):超大規模のAIおよびハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)アプリケーション向けのNVIDIAスーパーチップであり、144個のNeoverse CPUコアを搭載したArmベースのNVIDIA Grace CPUを採用しています。
29. Boston Dynamics Spotロボット(2023年):Arm Cortex-A CPUテクノロジーを基盤とし、産業・商業ユースケース向けに設計された四足歩行ロボットです。
30. Microsoft Azure Cobalt 100(2023年):Arm Neoverse Compute Subsystems(CSS)をベースとした、Microsoft初のクラウド向けカスタムシリコンです。
31. Google Cloud Axion(2024年):クラウドおよびデータセンターにおける汎用演算およびAI推論ワークロード向けの、Neoverse搭載カスタムプロセッサーです。
32. Nuro Driver(2024年):Nuro Driverは、自動運転車の大規模展開に向けた第1世代のL4自律テクノロジーであり、Arm Automotive Enhanced(AE)テクノロジーをベースに構築されました。
33. Geely EX5(2025年):吉利汽車の国際市場への初参入となったこの自動車にはArm AEテクノロジーが採用されており、インテリジェントなパフォーマンスに牽引されるソフトウエアデファインドビークルへの、自動車業界のシフトを明確に示しています。
34. Meta Ray-Banディスプレイ・スマートグラス(2025年):Armテクノロジーをベースとし、フルカラーの高解像度ディスプレイを搭載した先進的なAIスマートグラスです。
35. NVIDIA DGX Spark(2025年):ArmベースのパーソナルAIワークステーションにより、あらゆるAI開発者・研究者は、自分のデスクに高性能AIシステムを所有することが可能になりました。
Arm上で築かれる未来
これらのArmベース製品のマイルストーンはいずれも、世界中の数十億の人々の日常的なテクノロジー体験に深い影響を及ぼしてきました。それぞれの年代を通じて、Armはコンピューティングの在り方を変革し、テクノロジーをより身近なものとし、あらゆる場面で必要なインテリジェンスとパフォーマンスを実現してきました。私たちがAIの時代を進み続ける中、Armは引き続き基盤プラットフォームとして、現在と未来における可能性を切り拓いていきます。
Armは、35年間にわたりArm上で最先端の技術革新から現実の変革を生み出してきたすべてのエンジニア、イノベーター、パートナーの皆様に心より感謝するとともに、次の35年間に待ち受けている未来を楽しみにしています。
関連リンク
転載記事:35年間のArmイノベーション:モダンコンピューティングを再定義したArmベース製品35選
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