富士通の次世代「FUJITSU-MONAKA」プロセッサーは、Armアーキテクチャを基盤としており、スーパーコンピューティング級の処理性能、高いエネルギー効率、そして次世代のセキュリティ機能によって、データセンターとエッジコンピューティングを変革することが期待されています。
企業がAIワークロードの急増とエネルギーコストの高騰に直面する中、コンピューティングの経済性確保への圧力がかつてなく高まっています。また、クラウドやデータセンター向けの従来型のアーキテクチャは、AIの性能向上や需要拡大とコストのバランスを図る上で求められる、パフォーマンス、効率性、拡張性の対応に苦慮しています。
富士通の「A64FX」プロセッサーを搭載した「富岳」が世界最速のスーパーコンピュータとなったことで、Armアーキテクチャが、地球上で最も要求の厳しい計算ワークロードにも対応できることが実証されました。しかし、この偉業は大きな成果であった一方、Arm技術を活用した富士通の取り組みの始まりに過ぎませんでした。
富士通は現在、大胆な戦略転換を図っています。この戦略は、同社の事業を再構築するとともに、データセンターを取り巻く、より広範な環境にも影響を及ぼす可能性があります。FUJITSU-MONAKAプロセッサーを通じて、富士通はスーパーコンピューティング分野の実績を基盤に、Armの高性能かつ高効率なCPUアーキテクチャと進化し続けるエコシステムを活用することで、エンタープライズ、クラウド、エッジ環境向けの強力かつ革新的な最新の演算プラットフォームを提供していきます。
実績ある基盤に基づく戦略的拡大
富士通の評価は、ハイパフォーマンス・コンピューティング向けに最適化した用途特化型プロセッサーの開発実績によって築かれてきました。その歴史は、SPARCプロセッサーの時代までさかのぼります。ArmのScalable Vector Extension(SVE)とHBM2メモリを革新的に活用した同社のA64FXは、こうしたアプローチを象徴する製品です。つまり、一つのフラッグシップ・スーパーコンピュータ・プロジェクトのために設計された専用チップなのです。
一方、FUJITSU-MONAKAは、これまでと根本的に異なる戦略を採用しています。富士通はFUJITSU-MONAKAを、ニッチなプロジェクト向けに設計されたものではなく、広範なデータセンター市場のほか、通信インフラやエッジAIアプリケーションなどのエッジコンピューティング環境での採用を見据えた、スケーラブルかつ商用展開可能なプロセッサーとして位置付けています。同社はFUJITSU-MONAKA CPUを、日本国内外のエンタープライズおよび社会インフラ向けに広く提供する方針であり、このことは事業規模と市場フォーカスにおける大幅な転換となる見通しです。
この事業拡大の目的は、単にチップの販売数量を増やすことではありません。AIの存在感が高まる急成長中のデータセンター市場において、富士通が信頼できる代替ソリューションとしての地位を確立することにあります。Armv9アーキテクチャを基盤とすることで、富士通は成熟しつつも成長を続けるエコシステムを活用すると同時に、AIワークロード向けのコンパイラおよびソフトウエアの最適化や、信頼性エンジニアリング、エネルギー効率に優れた設計に関する自社の高度な専門知識を提供しています。
AI/HPCワークロード向けの高性能とSVE2による高度なベクトル処理
FUJITSU-MONAKAは、ArmのScalable Vector Extensions 2(SVE2)を実装することで、実環境におけるAI/HPCパフォーマンスを高速化します。SVE2は、利用可能なシリコンに応じて一度に処理する演算量を最適化し、プロセッサーの大容量データ処理における全体的なパフォーマンスを強化します。その際、他のオフチップ・アクセラレーターは不要です。
この技術は、科学演算、工学シミュレーション、AIの学習タスクなど、高価値なデータセンターおよびAI分野のアプリケーションを支えるベクトル集約型ワークロードに特に適しています。SVE2向けに最適化された一般的なフレームワークやライブラリの多くは、FUJITSU-MONAKA上でこうしたパフォーマンスのメリットを活用できます。HPCの開発で富士通が長年培ってきたコンパイラ技術における実績と、Armのソフトウエアエコシステムやコラボレーションが組み合わさることで、ソフトウエアはこの演算能力を効率的に活用し、AI/HPCアプリケーションを高速化できます。
大規模なエネルギーの効率化
データセンターがエネルギーコストの高騰とサステナビリティに取り組む中、電力効率は競争上の差別化要因となっています。FUJITSU-MONAKAは、パフォーマンスおよび電力効率をそれぞれ2倍に高めることを目標としています。そして、既存のデータセンターの刷新と、より高密度な計算性能と電力供給を前提としたAI中心のデータセンター構築の両方に対応できるよう、空冷と水冷のいずれのインフラストラクチャにも最適化された設計を採用しています。こうした取り組みは、2030年までに国内データセンターのエネルギー消費量を40%以上削減することを目指す、日本の「グリーンイノベーション基金」プロジェクトと連携しています。クラウドプロバイダーやエンタープライズ向けデータセンターにとって、こうした効率化は、運用コストの削減と二酸化炭素排出量の低減に寄与します。
コンフィデンシャル・コンピューティングがセキュアなワークロードを実現
データのプライバシーとセキュリティが最重要視される中、FUJITSU-MONAKAは、Armv9 Realm Management Extension(RME)機能などのArmのConfidential Computing Architecture(CCA)を実装しています。この信頼できる実行環境に対するハードウエアベースのアプローチにより、マルチテナントのクラウド環境、規制産業、機密性の高い官公庁アプリケーションにおいて不可欠なワークロードのセキュアな分離が実現します。CCAのサポートをシリコンレベルでゼロから組み込むことで、富士通はFUJITSU-MONAKAを、セキュリティ要件により通常は共有インフラの採用が制限されてきた環境においても導入可能な製品として位置付けています。
パッケージングと設計のイノベーション
FUJITSU-MONAKAの技術仕様からは、最先端分野で勝負しようとする富士通の意欲的な姿勢が分かります。このプロセッサーは、先進的なチップレットアーキテクチャを採用しており、2nmの演算ダイと5nmのSRAMキャッシュダイを相互接続させています。さらに、これらの3Dチップレットは、2.5Dインターコネクトを介して5nmのI/Oダイと接続しています。デュアルソケットで最大288コアまで拡張可能な構成、DDR5メモリ、PCIe 6.0、CXL 3.0のサポートにより、FUJITSU-MONAKAは、高負荷のデータセンターワークロードに必要なI/O帯域幅とメモリ容量を提供します。
キャッシュダイ上に演算ダイを積層し、すべてを中央のI/Oダイに接続するこのチップレットのアプローチは、モノリシックなA64FX設計からの大規模な進化を示しており、歩留まりの向上、より柔軟な構成、そして複数のプロセスノードを最適に活用することを可能にします。
富士通が「メインフレームクラス」の信頼性を強調しているのは、素のパフォーマンスだけでなく、エンタープライズ顧客が求めるオペレーショナルエクセレンスでも勝負しようとする同社の意向を示すものです。
エコシステムの構築
特筆すべきは、富士通がこの取り組みを単独で進めているわけではないことです。FUJITSU-MONAKAの市場における競争力を強化すべく、同社は次のような戦略的パートナーシップを構築しています。
- Armとのコラボレーション
SVE2の最適化とオープンソースソフトウエアの有効化に関するArmとのコラボレーションによって、Armの広範なエコシステムは、FUJITSU-MONAKAの成功に貢献すると同時に、その成果から恩恵を受けることができます。
- Supermicroとのコラボレーション
富士通はSupermicroとの戦略的コラボレーションを通じて、グローバルでの展開を強化しています。さらに、付加価値を創造すべく、同社は戦略的パートナー各社とのGPUのコラボレーションを通じたエコシステムの拡大にも取り組んでいます。
こうしたパートナーシップは、データセンター分野で成功を収めるには、卓越したシリコンだけでなく、ハードウエア、ソフトウエア、エコシステムサポートの包括的なスタックが必要であることを示しています。
より幅広い戦略
FUJITSU-MONAKAを通じて、富士通がHPCからデータセンターへと事業を拡大していることは、単なる一社の戦略にとどまらない意味を持っています。これは、Armのアーキテクチャとソフトウエアエコシステムが、演算集約型のAI/HPCワークロードの全分野に対応できるまでに進化していることを裏付けています。エネルギー効率、柔軟なベクトル処理、強力なシングルスレッド性能など、スーパーコンピューティング分野で富岳の実績を可能にしたアーキテクチャ上の特長が、今や大規模な商用データセンター環境をサポートしています。
業界全体にとって、FUJITSU-MONAKAもまた、データセンター分野におけるArmの勢いを示す証拠の一つです。ワークロードが多様化し、効率性が最優先事項となる中で、さまざまな制約に合わせて最適化されたレガシーなアプローチとは対照的に、エネルギー効率に優れたスケーラブルな演算を実現するため特別設計されたアーキテクチャは、競争上の優位性を獲得しています。
今後の展望
2027年に一般提供開始を予定しているFUJITSU-MONAKAは、構想段階から実用化のフェーズへと移行しつつあります。FUJITSU-MONAKAの後継製品にあたる「FUJITSU-MONAKA-X」もすでに発表されており、「富岳NEXT」への採用が予定されています。「FUJITSU-MONAKA-X」は、スーパーコンピューティング分野での富士通の伝統を継承しながら、これをワンランク上に引き上げると同時に、商用データセンターやエッジコンピューティング用途(通信や分散型AIワークロードなど)も対象としています。
データセンター分野では、効率性、セキュリティ、パフォーマンスのニーズに牽引される形で、既存のレガシー・アーキテクチャに代わる選択肢が求められています。こうした状況の中、富士通のArmへのコミットメントは、コンピューティング環境を再構築し得るアーキテクチャとしての正当性を示すとともに、重要なビジネス機会の裏付けにもなるものです。
脚注
[1] FUJITSU-MONAKA:FUJITSU-MONAKAに適用されるこの新技術は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成プロジェクトで得られた成果に基づくものです。
関連リンク
転載記事:スーパーコンピュータからデータセンターへ:Armを活用した富士通の事業拡大
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