2025年7月16日、「SoftBank World 2025」(ソフトバンク株式会社主催の法人向けイベント)が開催され、ソフトバンクグループ株式会社会長兼社長の孫 正義が特別講演を行いました。
講演の前半では、OpenAIのサム・アルトマンCEO & Co-founderとの対談、後半ではプレゼンテーションを行いました。本記事では、後半のプレゼンテーションについてご紹介します。
10億 AI agents の実現に向けて

孫はまず、2025年2月に発表した「クリスタル・インテリジェンス(Cristal intelligence)」について「着々と進展している」と述べました。そして、「我々はソフトバンクグループ全体で10億の AI agents を作っていきたいと考えています。 AI agents は、24時間365日、お盆もお正月も一生懸命働きます。技術部門でも、人事部門でも、財務部門でも、エージェントがあらゆることを個別にモニターし、自律的に判断しながらアクションを起こす。そして、エージェント同士がコミュニケーションを図り、さまざまなアクティビティを行います」と構想を語りました。
そして、2025年1月に発表したStargate Projectもその一環であると述べ、「このプロジェクトでは、巨大なデータセンターの中に数多くの最先端の半導体が入り、圧倒的な規模でスケールアップ・スケールアウトすることで、AIの演算能力を大幅に高めることができます」と語りました。

さらに、孫は進化のスピードについて、次のように説明しました。「インテル創業者のゴードン・ムーア氏は、50年ほど前にコンピュータの演算能力は18カ月で2倍になると予測しました(ムーアの法則)。しかし、スターゲートでは、チップの数が10倍、チップ1つ当たりの演算能力が10倍、モデルの性能が10倍になります。10×10×10ですから、1回のサイクルでおよそ1,000倍能力が向上します。それが2回目のサイクルでは1,000×1,000で100万倍に、3回目のサイクルでは1,000×1,000×1,000で10億倍になります。10億倍の世界では、我々の想像を超える変化となり、常識そのものが変わるでしょう」と述べました。
自己増殖と自己進化で10億の AI agents を作る
続いて、ソフトバンクグループ全体で10億 AI agents を作る構想について、孫は「人間の複雑な思考を踏まえると、社員1人当たり最低1,000本の AI agents が必要であり、それは3つの段階を経ることで達成できると考えています」と述べました。

1つ目は、エージェントOS。「社員1人当たり1,000本の AI agents を作成したとしても、それらがバラバラに動いたら仕事になりません。オーケストレートし協調させなければいけない」とエージェント同士を連鎖させるOSの必要性を語りました。
2つ目は、エージェントを作る道具立て。
3つ目は、「エージェント自らがエージェントを作る」こと。「エージェントが、様々な課題を自ら解決できるようになるために、強化学習により自らを進化させてそのゴールに向かって思考体系を変えていくようにするのです。強化学習に当たってはゴールと報酬の明確化が重要であり、これまでは人間がゴールと報酬を指示してきました。しかし今後は、社員が会議やプロジェクト管理などの業務をしている様子を見ながら、エージェント自らが強化学習のゴールと報酬を設定して、自己増殖と自己進化をしていきます」と述べました。
さらに孫はAIの生涯記憶について、「これからは、聞いた時にだけエージェントが答えるのではなく、『常時 ON』なのです。生涯記憶をもち、今までに交渉したこと、会議したこと、会話したことを全て覚えています。また、強化学習するエージェントは報酬を与えることで自ら進化します。思考の連鎖です。今までの三段論法と比べ、思考の連鎖(Chain of Thought)が100段階くらいになると、ほぼパーフェクトに外れない。だからこれは検索ではなく、思考の知恵なのです」と説明しました。
AI agents で生活が変わる

孫は、実際に AI agents を使用すると生活がどのように変わるのか、活用事例を動画を交えて紹介しました。
まず、コールセンターでの活用について、「これまでも、応対を機械的なテープのようなものに置き換えたものはありましたが、それは人間のオペレーターよりも劣っていました。ところが、 AI agents を使ったコールセンターは、人間のオペレーターよりも素早く、深く、細やかにアクションを起こしてくれます。顧客が話している内容をすべて理解できる。新しいキャンペーンなどのリアルタイムの状況なども全部把握した上で応対できる。もはやスーパーヒューマンです」と紹介しました。
また、ショッピングサイトでの活用については、「いろいろなカタログやWebサイトを確認し、価格も比較しなければならなかったのが、 AI agents を使うことにより、顧客の好みや購買履歴などを照らし合わせながら、どんどん提案してくれるようになります」と説明しました。
進化を真正面から捉える

最後に孫は「今後、ありとあらゆるシーンでエージェントが作られ、使われるようになります」と語りました。そして「今の日本に一番必要なことは、進化を真正面から捉えて、それに食らいついて、自ら取りに行こうと参加することです。そのための道具は世の中にたくさん生まれてきており、我々も多くを提供したいと思っています。でも、その道具がいくらあっても、進化を否定する会社や進化を拒む人は、自らの未来を制限してしまうのではないかと思います。我々はそういう議論の場や機会も提供していきたいと思います」と講演を結びました。